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フィーリング・オノマトペ、フィーリング・キャラクターズ

概要

私たちの感情は一日の中で刻々と変化します。大事なプレゼンの直前には緊張して手が震え、思ったように喋れなければ少し落ち込み、終わった後にはカフェであたたかい紅茶を飲みながらほっと一息つく、といったように。そして、その日が自分にとってよい一日だったか(ウェルビーイングな日であったか)は、このような感情の変化によって大きな影響を受けます。ずっと不安や恐怖が続いたとしたら、それは誰にとってもつらい日でしょうし、試験に合格するなど、何か特別なよいことがあった日は、多くの人にとってよい日になるでしょう。ただし、感情の変遷とウェルビーイングの関係は、共通の部分もありますが、人によって異なる部分も多くあります。大きな感情の起伏がなく、穏やかな気分で過ごせる日がよい日であると感じる人もいれば、緊張や不安を感じながら新しいことに挑戦して、それをやり遂げた後の喜びを噛み締める日がよい日と感じる人もいるでしょう。

とは言うものの、私たちは、自身の感情の履歴を意識することは少ないでしょう。そんな時、一日の生活の中で、何度か自分の感情を記録し、一日の最後に「今日が自分にとってよい日だったのか」振り返ることで、どのような感情の変遷を辿ったときに、自分がよい日を過ごせるのか、気がつくことができるでしょう。例えば、「よい日」には共通して、午後に爽快な気分を抱いていたとしたら、午後に運動など爽快感を感じられる体験をするとよいかもしれません。また、「よい日」には共通して、ちょっと先の未来に楽しみを感じていたとしたら、未来の予定を立てる癖をつけるのもよいでしょう。このように、自分にとっての「よい日」の鍵となる感情の変化に気がつくことは、それぞれの人が、その人らしいウェルビーイングな一日を過ごすための指針を提供してくれます。

日常生活の中で刻々と変化する感情を記録してモニタリングするための手法の一つに「経験サンプリング法(Experience Sampling Method)」1)と呼ばれる方法があります。1日に数回、用意された感情表現について数値で回答することで、自分の感情を記録します。例えば、「悲しい:2 点」「嬉しい:5 点」「怒った:1 点」等です。しかし、この方法では、研究者が予め用意した尺度に対して、回答者がそれぞれの感情がどの程度の強さなのかいちいち考えて評価しなくてはいけないため、直感的に回答することが難しいという問題があります。また、この方法では、感情の種類と同じ数の質問に回答する必要があるため、回答者の負担が大きくなってしまいます。

そこで、NTTの研究所では、「わーい」、「がーん」、「わあ」等の直感的な表現である感情表現語(フィーリング・オノマトペ)や、顔表情と身体の動きを組み合わせてそれらの語に対応する感情を表現したイラスト(フィーリング・キャラクターズ)を作成し、今の自分の感情や気分に一番近いものを選択して記録する方法を考案しました。

フィーリング・オノマトペの作成

日本人が感情を表現する際には、オノマトペ(擬音語・擬態語・擬情語の総称)や感嘆詞を使用することが多くあります。この研究では、日本人が使用するこれらの表現について調べるウェブ調査を行いました。まず、調査に使用する感情表現のリストを作成するために、ロバート・プルチックという感情研究者が提唱するモデル2)にある「喜び」「予期・期待」「怒り」「嫌悪」「悲しみ」「驚き」「不安・恐怖」「好感・信頼」の8つの基本感情について、心理学と体験デザインの研究者がそれぞれの感情を表現するさまざまなオノマトペと感嘆詞を列挙し、その候補を挙げました。

調査では、約14,000人の20代から60代の日本語話者を対象に、上記のリストを呈示して、日常生活の中で実際に使うことがある表現を選んでもらいました。それぞれの感情と強度(強い、中程度、弱い)でよく使われる表現が集まり、それに基づいてリストを作成しました。なお、よく使われる表現は性別や年齢にかかわらず概ね一致していたため、年齢や性別を問わない共通のリストとなりました。その後、何度かの日常生活での経験サンプリング調査に基づいて、最終的にフィーリング・オノマトペ(40種)を決定しました(図1)。

[図1] フィーリング・オノマトペ一覧[図1] フィーリング・オノマトペ一覧

フィーリング・キャラクターズの作成

作成したフィーリング・オノマトペを参考にして、同様の感情を表す40個の顔表情と動きを組み合わせたキャラクターのイラストを作成しました。まず、2人の心理学研究者がイラストレーターにイメージを伝え、イメージから離れている場合は修正してもらい、研究者らが合意できるまでイラストの修正を繰り返して作成しました(図2)。

[図2] フィーリング・キャラクターズ一覧[図2] フィーリング・キャラクターズ一覧

感情表現の多様性と可視化

作成したフィーリング・オノマトペとフィーリング・キャラクターズが、日常生活で起こりうる多様な感情を表現するのに適しているか調べるために、約1300 人の20 代から60 代の日本語話者を対象にウェブ調査を行いました。ウェブ調査では、「飲み物を洋服にこぼしたとき」や「会議や集会で意見がまとまらないとき」、「ペットなど好きな動物と触れ合っているとき」など、日常のさまざまな状況を説明する80のエピソードを提示し、回答者がその状況に置かれた場合に抱くであろう感情に最も近いと感じるフィーリング・オノマトペとフィーリング・キャラクターを選択してもらいました。

同じエピソードで選択されることが多い感情表現は、概念的に距離が近いものとみなし、それぞれの感情表現間の距離を算出しました。そして、多次元尺度構成法を用いて、フィーリング・オノマトペとフィーリング・キャラクターのそれぞれを2次元マップ上に配置しました(図3)。この2次元マップの水平軸・垂直軸の値と、それぞれの表現が選択されたエピソードの感情価(不快―快)や覚醒度(緊張や興奮の強さ:高覚醒―低覚醒)の平均値には強い相関が見られたため、概ね水平軸を感情価、垂直軸を覚醒度とみなすことができます。2次元マップから、フィーリング・オノマトペもフィーリング・キャラクターも、感情価や覚醒度の異なる多様な感情を表現できることがわかります。

[図3] フィーリング・オノマトペの2次元マップ[図3] フィーリング・オノマトペの2次元マップ
[図3] フィーリング・キャラクターズの2次元マップフィーリング・キャラクターズの2次元マップ

感情履歴によるウェルビーイングログ

フィーリング・オノマトペとフィーリング・キャラクターズのどちらを使って日々の感情を記録するかは、記録するユーザー自身が使いやすい方を選んでもらうのがよいでしょう。一日の中で何度か、ユーザーがその瞬間に感じている自分の状態に最も近い感情表現を選択します。目的に応じて、ユーザー自身が感情に気づいたタイミングで記録してもよいですし、出来事が起こったタイミングや決まった時刻に記録する形式を選んでも構いません。

ユーザーが選択した感情表現について、ユーザーの心的状態を感情価ー覚醒度の2次元マップ上で可視化することができます。これにより、ユーザーは一日の中でどのような感情の変化をたどったかを把握でき、数日間記録を繰り返すことで、どのような感情の変化が自分にとって「よい日」と感じるかに気づく手助けとなるでしょう。

【脚注】
  • 1) Hektner, J. M., Schmidt, J. A., & Csikszentmihalyi, M. (2007). Experience sampling method: Measuring the quality of everyday life. Sage.; Scollon, C. N., Prieto, C. K., & Diener, E. (2009). Experience sampling: promises and pitfalls, strength and weaknesses. In Diener, E. (Ed.) Assessing well-being (pp. 157-180). Springer.
  • 2) 橋本泰央, 小塩真司 (訳). (2019). 円環モデルからみたパーソナリティと感情の心理学. 福村出版. (原著: Plutchik, R. E., & Conte, H. R., 1997) Plutchik, R., & Conte, H. R. (Eds.). (1997). Circumplex models of personality and emotions. American Psychological Association.

関連情報

学術誌
  • 使用方法の提案
    渡邊淳司, 七沢智樹, 信原幸弘, & 村田藍子. (2022). 情報技術とウェルビーイング: アジャイルアプローチの意義とウェルビーイングを問いかける計測手法. 情報の科学と技術, 72(9), 331-337.
  • 実際に経験サンプリング法として活用した研究
    村田藍子, 金田喜人, & 渡邊淳司. (2023). 感性表現語を用いた感情ログの遠隔共有―with コロナのリモートワークにおける検討. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 28(1), 31-34.
  • 妥当性の検証と2次元マップ
    原田誠一, 伊藤万由子, 渡邊淳司, 田中由浩, 加藤昇平, & 村田藍子. (2023). 主観感情の時間的変化の直感的な記録・可視化手法: 身体性に根ざした感性表現の二次元マップの構築. 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 28(2), 67-70.
  • 感情表現に関する大規模調査を行った研究
    Murata, A., Zhou, Y., & Watanabe, J. (2024). Embodied emotional expressions for intuitive experience sampling methods: A demographic investigation with Japanese speakers. International Journal of Wellbeing, 14(1).

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